無力。
悪い知らせを聞くときは、それなりに心の準備が必要だ。不意に悪い知らせを打ち明けられると、瞬時に判断ができない。
お昼休みが終わり、午後から約束しているクライアントへ向かうべく用意を整えていた。
私の目の前では、届いたばかりの郵便を開くボス。
「○○さんが、自己破産の申請をしたらしいで。」
へぇ〜!大変ですねぇ。
え?なんて?○○さんって、私の担当やん!
債権残高を確認する郵便が、弁護士さんから届いた。俄かには信じられない。3週間前にお目にかかったときには、何も変わった様子は無かった。
そのクライアントは、先代の社長から引き継いだ不動産と借金で、息も絶え絶えだった。毎月が綱渡りで、「尋常ではない」と言うよりも、「想像を絶する」資金繰りの苦しさだった。
社長は、根っからのぼんぼん。口ばかり達者で、動かない。意欲がない。だけど、奥さんがとても前向きで、明るいかたなので、メインバンクの担当者と私は、応援し続けていた。なんとか「本業」で儲かってほしい、そう願い続けてきた。
なんで?もう他に選択肢は、なかったの?いつ決めたの?これからどうするの?仕事そっちのけで、おしゃべりに熱中したこともあったのに。どうして一言も相談してくれないの?聞きたいことは山ほどあるが、もう、勝手に連絡もとれなくなってしまった。
今にも涙がこぼれ落ちそうになるのを堪えながら、午後からの仕事を片付けた。家に帰って、自分の部屋に入ったとたん、涙が出口をみつけて、こぼれ落ちた。おいおい泣いた。
私は、無力だ。結局は、何の力にもなれなかった。人のために、自分が「何か」をできるなんて、そんなおこがましいことを考えてはいない。しかし、私は、あまりに無力すぎる。
担当している会社が自己破産するのは、初めての経験だが、それが悲しいのではない。あの奥さんに対して、なにもできなかった自分が悲しくて、悔しい。
何のために仕事をしているのか、わからなくなってしまった。
関連記事