無言電話。
毎年この季節、一年に一度だけ、無言電話がある。
ナンバーディスプレイは「ヒョウジケンガイ」と表示される。
誰が電話を取っても、何も言わずに切れる。
留守番電話でも、一瞬の間をおいて切れる。
毎年、決まったようにかかってくる。
誰からの電話なのかは、わかっている。
なぜ、この季節なのかも、わかっている。
電話の主は、昔々、大好きだった人。その人と会わなくなった年の6月から、もう10年近く、この無言電話は続いている。
声を聞かなくても、わかる。私だけが、わかる。
あと何日かで、私の誕生日。その日を確認するためにかかってくるように思う。
「サヨナラしても、私の誕生日は忘れないでねぇ。」なーんて言うタイプの女じゃないので、何かの約束をしたわけではない。
しかし、その人からの電話だとわかるのである。
なぜか?
ナンバーディスプレイの固定電話でも、携帯電話でも、その人からの電話は、いつも「ヒョウジケンガイ」だったから。自分からの着信が「ヒョウジケンガイ」だとは、本人さえ気付いていないはず。
それと、留守番電話の1秒ほどのすき間でも、無言電話の数秒の沈黙でも、電話の切り方一つをとっても、その人だとわかる。
それほど好きだった。
毎年のこの電話を奇妙に思っている父は、「また今年もか・・・。」と訝っている。私は、複雑な心境を隠し「お母さんからやと思えば良いやん。」と暢気なふりをしている。
私は元気です。幸せに暮らしています。だから安心して下さい。もう電話は、いりません。私のことは、もう忘れて下さい。
・・・このブログを読んでくれているわけじゃないけど・・・そう伝えたい。
ニガウリに、ちっちゃな実がなったよ。
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